この章の観測指標
指標 01予備率 — 電力の「余白」はどれだけあるか
World
世界のAIデータセンターは電力系統の新しい大口需要家になりました。国際エネルギー機関(IEA)は、 世界のデータセンター電力消費が2030年に向けて倍増する見通しを示しており、米国では 大規模AIクラスターの接続申請が系統計画を塗り替えつつあります。電力の「余白」=予備率は、 AIの増設余地を測る最も基礎的な体温計です。
Japan
日本では、全国の電力融通を司る電力広域的運営推進機関(OCCTO)が「広域予備率」を30分単位で公表しています。 本章はこの公式値を毎日取得し、その日の最小値(最も余裕がなかった瞬間)を定点観測します。 目安は、8%以上で安定、5%を切ると需給ひっ迫の入口、3%が安定供給に最低限必要とされる水準です。 真夏の夕方、太陽光が沈み冷房需要が残る時間帯に最小値が出る——これが観測を続けると見えてくる日本の電力のリズムです。
指標 02JEPXスポット価格 — AIの電気代はいくらか
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電力価格はAIの運用コストの本体です。欧州では2022年のエネルギー危機で卸電力価格が数倍に跳ね、 米国ではAIデータセンター集積地の周辺で電気料金の上昇が政治問題になり始めています。 電気が高い場所では、同じ計算をするコストが上がる——AIにとって電力価格は「生活費」そのものです。
Japan
日本の卸電力の値札は、日本卸電力取引所(JEPX)のスポット市場(前日市場)で30分ごとに決まります。 本章では日別の平均と最高値を観測します。日中は太陽光で価格が下がり、夕方に跳ね上がる「二こぶ」の形、 冬の寒波や燃料高で全体が持ち上がる動き——価格の形そのものが、日本の電源構成の姿を映します。 AIワークロードの側から見れば、「計算を安い時間帯に寄せる」余地がどれだけあるかを示す指標でもあります。
指標 03系統空き容量 — 新しいデータセンターは繋がれるか
World
世界のAI投資の隠れたボトルネックは、発電ではなく送電網への接続です。 米国やアイルランドでは、データセンターの新規接続待ち(interconnection queue)が数年単位に伸び、 「電気はあるのに繋げない」事態が現実化しています。
Japan
日本でも、基幹送電線の空き容量は地域差が大きく、各一般送配電事業者が「空容量マッピング」を公表しています。 ただしこの資料は転載禁止と明記されているため、本章では数値の転載はせず、 公表元へのリンクと傾向の観測コメントにとどめます(出所を尊重する方針です)。 一次情報は各社の系統情報ページ(例:東京電力パワーグリッド 系統情報)と OCCTOのリンク集をご覧ください。 今後、二次利用が許諾されたデータが得られ次第、定量観測に切り替えます。
指標 04再エネ比率 — AIはどれだけ「きれいな電気」で動くか
World
大手AI事業者はこぞって「カーボンフリー電力での運用」を掲げ、再エネ調達がデータセンター立地の 条件になりつつあります。世界の発電に占める再エネの伸びは、AIの「電気の質」の改善速度を決めます (世界データはEmber等のオープンデータ(CC BY)を参照予定)。
Japan
日本の再エネ比率は、資源エネルギー庁「電力調査統計」(政府標準利用規約・月次公表)で追えます。 本章では月次で全国・エリア別の再エネ比率を取り込む準備を進めています。 現時点の表示は未計測です——計測できていない数字を「0」とは書かない、が本白書のルールです。
指標 05分散電源 — 系統に頼らない選択肢は育つか
World
系統接続の待ち行列を嫌ったAI事業者は、オンサイト発電(ガスタービン、燃料電池、そして小型原子炉SMR) という「自前のライフライン」に向かい始めました。マイクロソフトやグーグルによる原子力電源の確保契約は、 AIが電力系統の「お客さん」から「共同経営者」に変わりつつある兆候です。
Japan
日本では、コージェネレーション、蓄電池併設型の再エネ、データセンター向けオンサイトPPAなどが 分散電源の主な選択肢です。国土が狭く系統増強に時間がかかる日本でこそ、 「送電網を待たずに計算能力を立ち上げる」手段の育ち方が、AIインフラの伸びしろを左右します。 この指標は当面、制度・事例の定性観測から始めます(未計測)。
脆弱性 01予備率の警戒日数 — 起きたときにどれだけ痛いか
Japan
戦争・災害・温暖化は、AIのライフラインすべてを揺らす要因です。このうち気候・災害は第8章で発生の観測を始めました(「いつ起きるか」の予測はしません)。 そこで本白書は、予知を装う代わりに、各章に「脆弱性=起きたときにどれだけ痛いか」を測る指標を1本ずつ通します。 地震の発生時期は予知できませんが、建物の耐震診断はできる——という考え方です。これはその第1号です。
数えているのは、その月に広域予備率の最小値が 8% を下回った日数です。 8%は、電力広域的運営推進機関(OCCTO)が容量確保契約者に対して供給力提供(準備)通知を発する水準であり、 公的に「対応が始まる」最初の目安にあたります。あわせて、需給ひっ迫準備情報・注意報の水準である 5%、 警報の水準であり安定供給に最低限必要とされる 3% の日数も併記します。
この指標が意味すること:同じ規模の出来事(猛暑・寒波・電源脱落・災害)が起きたときに、 日本の電力系統がどれだけ薄い余力で受け止めていたかの記録です。AIデータセンターという新しい大口需要が乗る土台の厚みを測ります。
この指標が意味しないこと:停電の予測ではありません。予備率が薄い日があったことと、停電が起きることは別です。 また、需給ひっ迫注意報・警報の発令実績とも一致しません。特定の事業者や地域の責任を示すものでもありません。
定点観測は定義を後から変えると時系列が断絶します。そのため閾値・集計方法・表記は
2026-08-22 に v1.0 として固定しました。将来変更する場合も旧定義の系列を併記します。
定義の全文はリポジトリの定義書(docs/指標定義_脆弱性01_電力予備率警戒日数.md)に置いています。
出所と利用規約
- ・広域予備率:電力広域的運営推進機関「広域予備率Web公表システム」(出所明示のうえ利用可)
- ・スポット価格:日本卸電力取引所(JEPX)スポット市場取引結果(出所明示のうえ利用可)
- ・再エネ比率(予定):資源エネルギー庁「電力調査統計」(政府標準利用規約2.0)/Ember(CC BY 4.0)
- ・空き容量:各一般送配電事業者の公表資料(転載禁止のためリンクのみ)